ベルリンの青い空 その12 日々の疲れ,旅の疲れ 前篇

ベルリンの青い空 その12
日々の疲れ,旅の疲れ 前篇

ベルリンから帰って間もなく、自転
車が壊れてしまいました.
強風で倒れたところに,車が通っ
たようです.
後輪と荷台が変形して,走るとふ
らつきます.
少し離れた住宅街に,おじいさん
2人でやっている自転車屋さんが
あります.
新品はひとつも置いていないので
ありったけ地味なのですが,直す
のが好きで,手間を惜しまない実
直な雰囲気が伝わる好感のもてる
店です。
持っていきましたが,相当の手間
と時間がかかるようです.
数台並んでいる中古品の中に私
の目をひくものがあります.
つぎはぎの部品で色が違ってい
たりするのですが,ベースはブリジ
ストンの高級品です.
15000円と安い新車が買える価
格ですが,試乗するととても乗り
やすく,力強く安定して走ります.
少年時代に自転車で遠出してい
た時の感覚を思い出す,乗る楽し
さがあります.
修理費用と大差ないので,迷わず
買うことを決めました.
それから,なにかと自転車に乗る
機会が増えました.
ベルリンでも自転車で移動して街
並みを楽しもうと思っていたので
すが、カードが使えず断念した悔
しさもあるかもしれません。
けれどある日,ふくらはぎの痛み
が自転車のせいだと気づきました.
もう還暦をとうに過ぎているので,
少し無理をすれば当然のことなの
ですが,こうした原因のはっきりと
した疲れは,最近の私にとっては
極めて稀で、新鮮です.
今のこの疲労感が,ここ最近の忙
しさのせいなのか,長い間に蓄積
したものなのか,天候の不順によ
るものなのか,あるいは年齢のせ
いなのか,なかなか判別できない
ことが多いのです。
真綿でしめつけられるように,理
由もわからず自由がききません。
今回ベルリンに行く前もとても疲
れていました.
日常の疲れと行くまでの準備もあ
りましたが,決定的ダメージは飛
行機のチケットの買い間違いに気
づいたときです.
出発の2日前にいろいろチェック
していると,帰りの日程が1日違っ
ていたのです.
最後の日,日曜の朝市を少しで
も長い時間見ていこうとギリギリ遅
いフライトを選んだところ,経由地
のアムステルダムでほぼ一日待っ
てからの乗り換えに変更になって
いたのを気づかずに予約してしま
ったのです.
一瞬で頭の中が真っ白になりまし
た.
23時間何もできず、ただ空港で
缶詰状態になっているには耐えら
れそうにありません。
一応,旅行業者に問い合わせて
みましたが,まとめての予約なの
で帰りの便をキャンセルすると全
部が無効になってしまいます.
事前予約でない正規のチケットは
片道30万円くらいします.
一度は縁がなかったことにしようと
諦めましたが,予約したコンサート
には未練があります.
ため息をつきながらネットを調べ
ていると,人気の無いイベリア航
空のものがほとんど同じ日程で片
道11万円ほどで売り出されていま
した.
最初買ったチケットが往復12万円
ほどだったので約2倍ですが,相
場からするとかなり安いものです.
これでスピーカーを売った代金だ
けではすまなくなりますが,せっか
くの機会を逃すことはないと予約
しました.
この時素直にあきらめていれば,
テーゲル空港で走り回って疲れる
ことも,お金がなくて切り詰めた暮
らしをすることもありませんでした.
そしてこれも私のミスなのですが,
バスタブの無いシャワーのみの
部屋を予約してしまいました.
空港での必死の走りで足はこわ
ばって,一歩ごとに痛みがはしり
ましたが,お風呂で身体を休める
こともできません.
カードが使えず部屋の交換もで
きず,一人寒いベルリンの一室
でじっと耐えるしかありません.
一体何のために俺はここにいるの
だろうと自問しますが,答えもあり
ませんでした.
レコードが欲しいとか,買いたい
ボールペンがあるという欲もありま
すが,達成することもできません.
多くの限界がありますが,何も強
制はされてはいません.
ただ,裸の感性の声に従ってここ
に静かに、無になっていることしか
できません.
それが疲労の中,シオン教会との
出会いにつながっていきます.
望んでいたものとはまったく違い
ますが,何かの必然があって出会
う運命だったような,不思議な天の
采配があるように感じます.